さて、今月に入って店舗物件の動きも忙しくなってきた。
秋頃から物件収穫の時期かな?と予想していたのでまだまだ勘が冴えているなと安心している。
それに息を合わせるかのように、出店依頼・店舗開発代行の話が増えてきた。
しかし申し訳ないことに、何件もお断りしているのが現状だ。
これに関しては単純に当社のリソース不足でもあるが、他方で我々がこれから突き詰めるべき課題である「店舗開発のアウトソーシング(外注)」について、まだまだ出店者に理解が得られないことが理由としてある。
貸す側、探す側、そしてそれを繋ぐ役、この三役を20年に渡りこなしてきた見地からちょっと問題について考えてみたい。
出店側の問題
①金は出すから物件を持ってきて、という姿勢
これは中小オーナーによく見られる光景で、この空気を感じる依頼は一切お断り(実際はやんわりと)するようにしている。この空気とは、金を払うんだからさっさといい物件持ってきてよ、という姿勢である。
中には「決まらなかったらお金返してくれるの?」という外食経営者もいた。
食べる前から「まずかったらお金かえしてくれる?」と客が言うたらどうするの?と聞ききたくなるがそこは社会人。「合いそうな物件があったら送りますね~」と笑顔で帰ってきた。当然そこから一切連絡していないし、どんな物件を探していたかさっぱり覚えていない。
②業者相手に横暴な態度になりがちな業界構造
これに関しては、U&C時代に飲食企業経営者として気を付けていたのだけど、少なからずそうなってしまう構造があるなと感じている。上場してからはさらに気を付けていた。
店舗ビジネスは店舗数が増えると、本部が「お金を使うだけ」の状態になる。
飲食企業なら〝食材も酒も仕入れてあげる、ビールも選んであげる、厨房もPOSレジも買ってあげる、システムも入れてあげる、内装も作らせてあげる、人材紹介を受けてあげる〟。
あげるあげる、といった具合に、日々お客さんに頭を下げるのは現場の人間で、本部は取引先に頭を下げられっぱなしの居心地の良い状況が続く。結果、立場を勘違いして横暴になってしまう構図だ。当時、現場から本部に上がってきた責任者に、取引先への態度を注意した覚えがある。
③すぐに怒る人には良い物件は回ってこない
その流れで、店舗仲介業者にも上から目線でふるまう以下のような人が非常に多い。
- 送られてきた物件に「飲食不可」が混じっただけで怒る
- 希望物件坪数が違っただけで怒る エリアとか。
- 申込みをしたのに取れなかったと怒る
- 仲介手数料、礼金、定借がどうのなど、とにかく敵対してくる
- 少し間が空いただけで、早く物件探せと威圧してくる
これには仲介業者時代に非常に参った。特に年間1~2軒しか出店しないような中小企業経営者がオラオラ率が高かった気がするが、何百ある中の一社なので、いちいち個別に構ってられない。
そして最終的には無視して物件を送らなくなる。この手の人はお客さんとしても重要ではないことがほとんどだからだ。
サラリーマンとしての手前、ゴミみたいな物件だけはたまに送っていたけど。。
業者側の本音
①出店したい「だけ」の人は特にお客さんではないという事実
店舗物件は住宅やオフィスと違い「収益を生み出す金の卵」である。
立地商売といわれるビジネスにおいて、この物件別の収益力をM&Aなどの考え方に当てはめれば分かりそうなもんだが、これがなかなかに伝わらない。
したがって、皆が欲しがる物件は圧倒的に売り手市場であり、選ぶ権利はほぼ100%業者側にあるといってもいい。
- 誰も目もくれない物件で出店してくれる
- 誰よりも高い賃料を出してくれる
- 笑顔で手数料をたくさん支払ってくれる
これに当てはまらない人は特に良いお客さんではないのである。ましてや上記の「偉そうな」人はニコニコしながら無視でよい、といった指示が飛んでいたりする。
情報にコストを払わない、出店したいだけの人はキノコタケノコ、常に売るほどいるのだから。
②いい物件を探してくるのが仲介の仕事でしょ!という誤解
契約したら仲介料払うんだから、早く探してよ!
これは住宅、事務所なら通用するかもしれないが店舗(特に駅前の希少物件)では通用しない。
仲介手数料はあくまでも「仲介業務」のみに対する対価で「物件探索・発掘、選別」は別という考え方がある。だからこそ店舗開発という職業があり、大手は安くないコストをかけて店舗開発マンを雇用している。
不動産屋は一ヶ月分以上の手数料をもらったら違法!などという人もいるが、結論、他人も欲しがる希少な物件を、自分の為だけに探してほしい時はコストをかけてというのが業者側の本音である。
そして、不動産業者がコストをもらって贔屓に探す「店舗開発代行」と打ち出しているのが現状なのだが、正直我々プロから言わせれば、どこまで分かってやっているのかは想像に難くない。
アウトソーシングが業界に浸透しなかった理由
不動産仲介会社が「開発代行」を名乗ったこともあり、上記で述べた「店舗開発」と「仲介業務」、このあたりがごちゃ混ぜになった状態が長く続いてきた。
よって、店舗物件=成功報酬という考え方が根付いてしまい、それに流された結果、開発業務一本勝負だと日々かかるランニング費用と成功報酬の折り合いが付けれらなかったのだと思う。
あと一つ付け加えるなら、業種やエリアが被ると自社競合してしまい、事業としてスケールしづらいといった理由が浮かぶ。
店舗開発職はアウトソーシングに向いている
世の中は今アウトソーシングだらけだ。外食業界なら、業態開発、仕入れ、人事、ファイナンスまで外注ができる時代になぜ店舗開発だけが取り残されているのか。
世の中から本物の店舗開発が年々減少している今、このままでは、貸し手(店舗不動産産業者、サブリース業者)と借り手の知識格差が業界の未来を左右しかねない。
店舗不動産経営者の友人が多いのだが、飲み会で皆一様にこんなこと言っていた。
コロナ禍で各企業から店舗開発が皆クビになり窓口が総務部になった。既存店の更新や値上げ交渉など、店舗不動産のことを何も知らず言いなりなのででずいぶん交渉がやりやすくなった、と。
すでに開発不在の悪影響は出始めているのである。
出店が止まれば必要がなく、本物に出会える(結果が出る)確率も低いため、雇用するにはリスクが高い職種でありながら、成長戦略の一丁目一番地(もう古いかな)である店舗開発は、最もアウトソーシングに適した業種だと強く感じている。もちろんその知識は上記のようにディフェンスにも必要だ。
次回は、これまで述べた問題をクリアしつつ、業者、大家側の本音も交えてどのようにして成立させていくのかを考えたい。